◆ 古風気味な百の題目 ◆
001.てのひらの幸福
指の間からこぼれ落ちて、もう、何処にもない。
いつだって喪ってから気がついて、気づいたときには遅すぎる。(笹塚)
002.夢か現か
ねえ、あんたが姿を消してからわからなくなったの。
あんたが居た日々こそが夢だったのか、それともあんたがいなくなってからずっと夢が続いているのか。(弥子)
003.目隠し
「だーれだ」
「……悪ふざけはおやめ下さい、X」
「なーんだ。驚かせたかったのに。ホントつまんないね、あんたは」
「わざわざ二歩足で立って目隠しまでしてくる大型犬なんてあなた以外の他に誰がいるんですか」(サイアイ)
004.炎
「構造的には三つにわけられるもんなんだ、炎ってのはさ。一番外側の外炎、その内側の内炎、中心部にあるのが炎心。温度は酸素に触れる外炎がもっとも高くて、炎心が一番低い」
「なんかそれって、匪口さんと逆ですね」
「……は? オレ?」
「はい。匪口さんは外側は一見冷めてるけど、実は内側に熱いものを秘めてそうな感じがします」
「へえ、面白いな。桂木のその印象が当たってるかどうか、ずっとオレのこと観察して確かめたらいいよ」(ヒグヤコ)
005.絶え間なく
感じる飢餓の欲求。我は飢えている。餓えている。
創意工夫と進化の可能性を秘めしヒトの子らよ。持成し、饗せ、我が手前に歓喜と悦楽の皿を!(ネウロ)
006.忌避の力
いつからだろう、私がその翼の庇護の下にあると気づいたのは。
私を傷つけるのも、危機から護るのも、どちらも同じ両腕なのだと知ったのは。(弥子)
007.因果
今の私を、と君は言った。
「この一瞬の刹那を忘れないで」、それが正気のままでいられた君の最後の願い。だが盲目的な君への執着を捨てきれなかった男は――春川は、そのささやかな祈りすらも聞き入れようとはしなかった。
愚かだろう、刹那? だから《私》は送ってやったのだ。若くして逝った君のもとへ。
人はそれを「親殺し」、あるいは「創造主への反逆」と呼ぶのかも知れない。わかっているのだ、刹那。私もまた愚昧にしかすぎぬいうことを。
遠からず私も逝くのだろう、君と春川の待つ場処へ。電子で構成された私に、救済すべき魂とやらが宿るというのならば。(HAL)
008.笑わなきゃ
傍にもうあいつがいなくても。
ほら、私は大丈夫だよって、元気だよって。だって、あいつのくれた言葉を、私はまだ忘れてない。(残された者)
009.うわのそら
「聞いてるのか笹塚ァ!」
「……あーすまん、聞いてなかった。で、なんの話だ?」
「お前は、猫派か犬派かどっちなのかと訊いているんだ!」(笛吹と笹塚)
010.半分
「ねーあかねちゃん、私、本当にネウロの役に立ってるのかな」
『どうしたの弥子ちゃん、急に』
「うん、色々とね、考えるの。私、半人前どころか三分の一人前ぐらいでしかないんじゃないかなって」
『大丈夫だよ。ネウロさんは普通の人間じゃ何人束になっても敵わないぐらい力も知恵もあるんだもの。弥子ちゃんは半人前ぐらいでちょうどいいんだよ』
「……なんかそれって微妙に慰めになってないよあかねちゃん……」(弥子とあかね)
011.幸福な無知
「貴様のようなことを言うのだろうな」
「なんのこと?」
「気づかんならそれでいい」(ネウヤコ)
012.月満つればすなわち欠く
「道理だな。詰めこんでも詰めこんでも一向に満ちんままの奴もいるが」
「どういう意味よ!」(ネウロと弥子)
013.愛玩
「ヤコ。我が輩の膝の上に座れ」
「――はあ!? な、なんなのよ、いきなり!」
「たまには我が輩も貴様をレディ〜として丁重に扱ってやろうと思ってな。さあ膝の上に座るがいい。撫でてやろう」
「こ、今度は何を企んでやがる……」
「企んでなどいない。ただの気まぐれだ」
「あんたの気まぐれはふつうの罠より恐いのよ。――って、ああっ! 何よ、その机に置いてあるペット情報誌! しかも猫版!」
「ふむ。ネコとヤコ、名前もよく似ているだろう。貴様も顎の下をくすぐってやれば鳴くだろうかと思ってな。さっさと来い」
「……なんか別の意味で泣かされそうな気がするから、遠慮します」(バカップル)
014.定め無き世の定め
「『誕生の瞬間から人間には隷属を運命づけられた者と、支配者として選定された者がいる』、と言ったのはアリストテレスだったな」
「大昔の哲学者め、余計なことを……。てゆーかあんた人間じゃないし。いいかげん、この背中に乗せてる足早くどけてよ!!」(主人と下僕)
015.もう二度と
「喪いたくないから望まないし、手に入れたくもないんだよ、弥子ちゃん」
「……残酷ですね、笹塚さん」(笹ヤコ)
016.空白
俺の中にはずっと埋めきれない空白があって、そこはいつも白紙のまま。
あかいろだけなんだ。血潮のあか、生命のあか、鉄錆のあか。
それだけが、俺の虚しいばかりの白を埋めてくれる。(X)
017.お気に入り
「あんなロウソクだのソリだのどこで買ったのかと思ったら……『拷問道具大全』に『SMプレイ入門』、『アダルトグッズ通販サイト』……? ちょっとネウロ、パソコンのお気に入りに何入れてんの――!?」(通販マニア疑惑)
018.大丈夫
あの日からずっと、呪文のように唱えてる。
だいじょうぶ。(そばにいなくても)
元気だよ。(だから、心配しないで)
約束、憶えてるから。(ねえ、私はちゃんと笑えてる?)
――私、幸せでいるよ。(……寂しいよ、ネウロ)(弥子)
019.行方も知れず
その日、地上からひとりの男が姿を消した。異国【とつくに】より来たりた男の行方のみならず、その存在を記憶している者は誰もいなかった。――ただひとりの少女をのぞいては。(異邦人)
020.食欲
「人間の三大欲求の一つとされているな」
「私とネウロが唯一共有できる感情だね」
「残り二つもないわけではないが」
「二つって……睡眠欲と性、欲……だったっけ。え、前者はともかく後者もあるの?」
「聞きたいか?」
「ううん。なんとなく怖いから聞きたくないです……」(ネウヤコ)
021.忘れていいよ
私の気持ちなんか。きっと、魔人のあんたには必要ないものだから。(弥子)
022.不得手
「先輩って、基本的に他人に甘えるの、苦手でしょう」
「……そうかもな」
「たまにはオレを頼ってくださいね」
「その台詞は現場であと十年鍛えられてから聞いてやるよ、石垣」(笹塚と石垣)
023.神様なんていない
「お父さんが死んだときにそう思ったよ。もし本当に神様が居るんだとしたら、どうして罪を犯すように人間を創ったのって聞いてみたい」
「東洋では『神』を表わす〈シン〉という音が、西洋では『罪』という意味を持つのはなかなかに皮肉な偶然だと思うがな」(ネウロと弥子)
※原罪=original sin
024.愛してる
嗚呼、嗚呼、歌を詩を唄を。この歓びこそ命のすべて。胸に満ちる私の光。(アヤ)
025.声を聞かせて
「あーあ。あかねちゃんが喋れたらなあ。英語も教えてもらえるのに」
『そしたら、一緒に猥談もできるのにね、ヤコちゃん』
「……あっ、あかねちゃん!?」(弥子とあかね)
026.おくすり
「GHBとかAMTとかマジックマッシュルームとか」
「? なんですか、それ」
「旧脱法ドラッグ。現在は全部麻薬指定にされてるけどね」
「おくすりってそういう意味のものじゃないと思うんですけど……」(ヒグチと弥子)
027.失せ物注意
あんたが探しているのはこれかい、ネウロ? きれいな赤いイロだろ? この色はあの子の命そのものだからね。
――ねえ、そんなに大事ならどうして目を離したりしたんだ。あの子はもう、あんたの手の中には戻らないよ。(サイヤコネウ)
028.形見
残されたのは、「追うな」という言葉だけ。形のないもので良かった。
その約束が胸の中にある限り、私はこのさきも空の下で生きていける。あんたが地上にいなくても。(弥子)
029.生存本能
人としての形を失ってまで、なおも此の世に留まる存在。
これも生存本能と呼ぶのでしょうか。それでも、私はこの身がある限り見届けたいと思うのです。人と、そうでない者の間に結ばれつつある絆の行く末を。(あかね)
030.ほろりほろほろ
退屈な日常が、いつのまにか波乱の非日常にとってかわって。
この《非日常的な日常》がずっと続くのだと思っていた。だけど、それが、こんなにもあっけない、砂のように脆く崩れてしまうものだとは思っていなかった。(弥子)
031.熱病
溶かされ浮かされ流されて。それはきっと熱病のようなもの。
気がついたときには手遅れで、どんな薬も処方も効きはしない。
からだの上に覆いかぶさる重み。塗りつぶされたような真闇の中でマラカイトグリーンの瞳と目があったとき、私の中に燻る鉄をも溶かす熱はもう、決して冷まされることはないと遅まきに自覚させられたのだ。(不治の病)
032.はなさないでね
「いやマジで。ここ崖っぷちだから。あんたがその手離したら私死ぬから」(弥子→ネウロ?)
033.泣きたかった
あんたが死んだときにな、社長。だけど泣けねえままここまで来ちまった。
あんたはきっと草葉の陰でオレを笑ってるんだろうけどな。(吾代)
034.透き通る
ベリル、エメラルド、マラカイト、アダマイト、カバンサイト、クリソコーラ……。
鉱石なら、光にかざせば透けて見える。
だけど、どれとも似ているようでどれとも似通わない、あいつの二つの碧瞳だけはきっと、どれだけ光にかざしたって底まで見通すことなんかできない。
その冷たさだけは、石と同じなのに。(弥子→ネウロ)
035.悪い癖
「諦めが良すぎるのはお前の悪い癖だ、笹塚。苦しいなら苦しいと、なぜ素直に口にできん?」(笛吹)
036.極めて単純な話。
「最近思うの。あんたと出逢わなかったら、私は今頃どんな生活を送っていたのかなって」
「――何か含むところがあるようだな?」
「いやいやいや違うって! すでに起こったことを今さらどう言ったって仕方ないのはわかってるよ。そうじゃなくて、ただ純粋に気になるだけ。でもね、どれだけ考えても、あんたが私の前に現れなかったときの未来が思い描けないんだよね」
「…フン。ならばそれが一つの答えなのだろう、単純な話だ」(ネウロと、弥子)
037.牙
「ねえ、ネウロの牙ってさ、なんのためにあるの?」
「…どういう意味だ?」
「だってさ、いつも謎食べるときも丸呑みしてるじゃん。動物なら牙を威嚇の道具として使うこともあるけど、ネウロには威嚇するような相手もいないでしょ? じゃあ何のためにあるのかなーって」
「…………」
「あ。もしかしてそれ、チャームポイントとか?」(素朴な疑問)
038.疼痛
それを感じられるのは幸せなことだよ。オレはもう、イタミってのがなんだったのかすら、とうに忘れてしまったんだから。(X)
039.呆れるしかない
「ちょっと待て。まだ食うのかよお前。……しかもオレの金で」(吾ヤコ?)
040.上機嫌
「……なんか機嫌良さそうだね、ネウロ」
「ほう、わかるのか?」
「うん。絶対ロクでもないこと考えてそうな顔つきだから」
「助手の心情を汲んで下さるとは、さすがは先生。ではお言葉に甘えてさっそく実験に移らせていただきましょうか」
「自分に都合良く解釈すんなァァ! てゆーか何よ、その怪しげな魔界道具はっ!?」
「大丈夫です、痛いのは最初だけですから」
「ギャアアア、やっぱりこうなると思ったァァ!!」
『機嫌が良くても悪くても、結果は同じなのが哀しいよね、弥子ちゃん……』(ネウロと弥子とあかね)
041.だめだよ
それ以上、あんたがただの人間に成り下がっていくのは許さない。
わかっているんだろう? あんたの変容が、瘴気の不足や環境に適応するための生存本能からくるものだけじゃないってことを。
常に傍らにある《ヒト》の存在が《魔人》をイビツにする。捩り、拉げ、毀し、歪曲させる。変貌/変化、進化/深化。
取るに足らないヒトの心理、感情、情操が、あんたをして興味を抱かせる。理解できなくとも共振を促す。
ねえネウロ、――もしそのまま堕ちてくるなら、ただのヒトへ近づいてくるというのなら。俺はいつでもこの手で殺すよ。あんたを徐々に《退化》させる、ちっぽけなヒトの小娘を。(気に入らない)
042.類似点
「なァ、お前、そんな勢いでモノ食ってって、いつか地球上の食料全部その腹ン中におさめちまったら一体どうするつもりだ?」
「んー、そのときはネウロに生まれた世界にでも連れてってもらって、どっかそっちのものを食べ尽くしてくるよ」
「……おめえ、やっぱアイツとよく似てるわ」(吾代と弥子)
043.苦しきことのみ多かりき
「ねー、アイー。生きてるのは辛いって思ったことある?」
「いいえ」
「ホントに?」
「はい」
「そう、やっぱりあんたは強いね。オレは当分あんたを箱にできそうにないや」
「――ですから私はあなたのおそばに仕えさせて頂いているのですよ、X」(サイアイ)
044.鮮血
「皮膚が裂けて噴きだす一瞬前が一番きれいな色をしてるって知ってる? 花みたいなんだよ。ねえ、見せてあげようか」
「……やめて」
「探偵さんの花はどんな風に咲くんだろうね。そしたらあいつはなんて言うかな」(サイヤコ)
045.水面の月
器ひとつあれば容易に手にできるが、所詮は紛い物だ。夜天に掛かる本物をねだるほうがまだ利口だぞ、ヤコ。(ネウロ)
046.味覚
「ねえ、究極の謎ってどんな味なんだろうね。できるなら私も味わってみたいなあ」
「ふむ。では我が輩が究極の謎を手に入れた暁には貴様にも味合わせてやろう。口移しで」
「――却下。」(ネウヤコ)
047.独占を禁ずる
「ちょっと助手の人、あんたいつまで桂木にベッタリくっついてんの」
「先生の御身に何かあっては大変ですから。常に僕がお傍にいて危険からお守りしなければと」
「オレたち警察がまわりをバッチリ包囲してるってのに、これ以上どんな危険が迫るっつーんだよ。あんたいい加減離れたら? 先生だって迷惑してんじゃん。なあ、お前からも言ってやれよ桂木」
「え、別にいつものことだし……」
「ほら、先生もこう仰ってますよ。それにね、匪口刑事。敵がいつも外側にいるとは限らないでしょう?」
「……あんた、本当にイイ性格してんな」
「お褒めの言葉として受けとっておきます」
(……なんでこの二人、こんなに仲悪いんだろう……)(ネウロと弥子とヒグチ)
048.必要悪
「我が輩にとっては、すべての悪意ある犯罪がそうだと言えるだろうな」
「なくなったら、ネウロ餓死しちゃうもんね」
「貴様ら人間にとっては不愉快な話だろうが」
「それでも、アンタが謎を解いてくれるんでしょ?」
「当然だ」(ネウロと弥子)
049.絆
「貴様と我が輩の間にあるとしたら、それはどんな名のつくものなのだろうな?」
「うーん……『食いしん坊同士』?」
「…………」
「いたたたた、ちょっと待ってなんで私頭シメられんの!?」(ネウ→ヤコ?)
050.あべこべ
「ちょっとネウロ。逆さまになって人の顔のぞきこむのやめてくれない? なんか、落ちつかないんだけど」
「貴様もなってみるか? たまにはこうして目線を変えてみるのも一興だぞ」
「遠慮しとく。頭に血が上りそうだもん。だいたいそんな角度でどんな面白いものが見えんのよ」
「貴様の鼻の穴とかな」
「…………っっ!!??」(ある意味羞恥プレイ。)
051.決意と覚悟
もし貴様にそれほど強固な意思があるならこの手をとるがいい。
だがしかしヤコ、貴様にヒトとしての身を捨てる覚悟はあるか? 人間として望める幸福を放棄する覚悟は?
それでも我が輩とともに在ることを希うか。
盲た目をもつ小娘よ。我が輩自ら手を離さなければわからぬというのか、愚かな貴様は。(相容れぬもの)
052.約束はしない
「約束なんざ、どうせてめーにとっちゃ反故にするためにあるようなものなんだろ」
「当然だ」
「…………」(ネウロと吾代)
053.小さな花
道端に生えている小さな花を見て、ふとあの子のことを思い出した。強い生命力と見る者の目を和ませる愛らしさ。ふうっと紫煙を吐き出して、今ごろ何をしているのだろうかと思いを馳せる。(笹塚→弥子)
054.つむじまがり
「よー、笹塚さん!」
「ああ、来たのか匪口」
「具合どう……あれ、笛吹さんもまた来てたんだ。相変わらず懲りない人だねー」
「わ、私は、ただこいつに事件の経過を説明しにきてやっただけだ。け、決して回復状況が気になって見舞いに来たというわけでは……」
「あのさー、世間じゃ笛吹さんみたいなの、なんて呼ばれてるか知ってる?」
「な、なんだ」
「そういうの、『ツンデレ』って言うんだってさ」(ヒグチと笹塚と笛吹)
055.悪態
「もー聞いてよ叶絵! あいつったら酷いんだよ!? 学校終わったらすぐにでも顔を見せろって言うし、土日だって祝日だっておかまいなしに人のこと呼びつけるし、行かなかったらしつこく『来い』ってメールしてくるし! 遅刻したら遅刻したでお仕置きだのなんだのって……もー全然自由なんかないんだから!」
「うん、ごめん弥子。なんでかあたしにはそれ、ノロケ話にしか聞こえないわ……」(弥子と叶絵)
056.ふわふわ
「ちょっと、ネウロ。人の頭の上にあご乗せて何してんの」
「うむ。なかなか置き心地がよくてな」
「それならせめてヒトの姿に戻ってからにしてよ。嘴がかたくて痛いから」(ネウヤコ)
057.敵の敵は味方
「……そんなわけで、打倒ネウロに協力してよ、吾代さん!」
「いや、オレは後が恐ェし、やるんならてお前一人でやってくれや」
「えええ、そんなあ!」(下僕たちの反乱)
058.星よりも
たくさんの人間がこの地上にはいるのに、どうしてあんたが出会ったのが私だったんだろう。
私は運命なんて言葉、信じないし嫌いだけれど、それでもあんたが私を選んだことに何か意味があるのだと、少しは自惚れてもいいんだよね?(弥子→ネウロ)
059.指先伸ばして
捕らえようとしたけれど、するりとかわされてしまった。
ねえ、私はいつかあなたを掴まえることができるのかな?(弥子→誰か)
060.軋み
今もまだ細胞が悲鳴を上げてる。本当の俺はどこに在るの。どうすれば見つかるの、と。
定まった心の形すら持てない俺に、こんな煩わしい痛みなどあるはずもないのに。(X)
061.記憶違い
「ゲッ、またあんたか!」
「よう、弥子ちゃんの助手君」
「こんにちは、笹塚刑事。それから……石……板……板垣刑事?」
「石垣だっての! なんだよそのわざとらしい間違え方はっ!」
「これは失礼しました、石垣刑事。不必要な情報はなるべく消去するように日頃から心がけているものですから、つい覚え間違いを」
「…………」
「気にするな、石垣。お前は少しばかり影が薄いだけだ」
「先輩、それ全然フォローになってません……」(ネウロと石垣と笹塚)
062.裏切り
「――何故ですか、X」
「ごめんね。もう待てなくなっちゃったんだ。だからどうかオレの為に箱になって? ね、アイ」(サイアイ)
063.有限の愛、無限の嘘
貴様は死ぬまで我が輩の奴隷だって、あんたはそう言ったじゃない。
なのに今さら手を離すっていうの。ひとり置き去りにするっていうの。
――ねえ、あんたはやっぱり傲慢でうそつきだね。私はもっと優しい嘘が欲しかったんだよ、ネウロ。(真実なんていらない)
064.横顔
「……どうした、弥子ちゃん。ずっとこっち見て」
「え。いえ、なんか届かないなあって」
「届かない?」
「はい。笹塚さんってずっと遠くのほう眺めてる感じがするから」(ヤコ→笹)
065.夜の散歩
「なんであんたが私の部屋にいるの。てゆーか今何時だと思ってんの」
「なに、退屈だったものでな。ちょっとした散歩だ」
「言いながらなんで人のベッドの中に入ってくんの! さっさと出て行け――!」(ネウヤコ)
066.ご褒美
「――をあげましょう、先生。頬か額か唇か、どちらがいいですか?」
「いいいいらないっ、いらないからカオ近づけて来るなー!」(ネウヤコ)
067.どうか気付いて
「……何をやっておられるのですか、警視。そんな柱の影で」
「いや、あいつがこちらを振り返らんだろうかと。さっきから電波……ではない、念を送っているんだが」
「素直に『退院おめでとう』と声を掛けられてはいかがです?」(笛吹と筑紫)
068.代価
糧となる謎を手に入れるため、我が輩は地上を狩場に定めた。引替となったのが弱体化ならば、決して安価ではないが、餓死するよりははるかにましな代償だったと言えよう。
だが、脆弱なる人の命、喪えば代価となりうるべき物はない。少なくとも、――なあヤコよ、我が輩は貴様とひきかえにできるものを何も持たんのだ。この身ひとつ(神か? あるいは死神か?)差し出して取り返せるものならば、幾らでも四肢を引き裂こうものを。
(……なぜ 我が輩を おいて 逝った?)(予測されざる死)
069.綺麗だった
……ほら、やっぱり箱になってもあんたはきれいだよ、アイ。
だけど何故なんだろう、生きていた頃のあんたのほうが、より美しかった気がするのは。(残った子ども)
070.狙い定める
「何よ、ネウロ。人の顔じっと眺めて」
「いや、いつになったら旬【たべごろ】を迎えるのだろうかと思ってな」
「???」(ネウヤコ)
071.猫
「――筑紫っ! 今の、見たか!?」
「は、どうなさったんですか、警視」
「見てなかったのか? そこの塀の上をオスの三毛猫が歩いていたんだぞ!」
「……ぱっと見ただけでオスかメスかわかったんですかあなたは」(笛吹と筑紫)
※オスの三毛猫=三万分の一の確率でしか生まれてこないため(クラインフェルター症候群)、非常に珍しい。
072.月に日に異に
「…花を愛でる人間の気持ちとはこのようなものかも知れんな」
『何がですか?』
「人間の――、いや、あれの話だ。芽吹き、茎をのばし、日ごと太陽を目指して成長していく。そのさまは見ていてなかなかに興味深い」
『それをなぜ弥子ちゃんに直接仰ってあげないんですか? 植物だって声をかけてあげれば喜んで育つんですよ』
「どんな花を咲かせるかはあれが自ら決めるだろう。我が輩が手を貸さずともな」(ネウロとあかね)
073.舌ったらず
「あぁ〜、ごらいさんらぁー、いらっしゃぁい」
「! あ、こらてめー、冷蔵庫に入れておいたオレの虎の子の酒飲んだな!? オイ化け物、てめーも黙って見てねェで止めろよ!」
「酩酊した人間の痴態を知るのもまた一興かと思ってな。別に害はなかろうと思って放置しておいたのだが」
「バカヤロー、立派な未青年飲酒じゃねーか! 法律違反だぞコラ! 『お酒はハタチになってから』だ!!」
「……貴様の口からそんな常識が聞けるとは思わなかったぞ、吾代」(探偵事務所)
074.験かつぎ
「どうされたんですか、笛吹警視。そのダルマは」
「こっ、これはだな! あー『犯罪撲滅』の為の願かけだ。け、決して笹塚の怪我が早く回復するよう願って片目を入れたわけではっ……!」
「――なるほど。よくわかりました」(墓穴を掘る)
075.無茶苦茶
「あんたみたいな存在だよね」
「旅館のバイキングを一人で食べ尽くした貴様に言われたくはない」(ネウロと弥子)
076.恋の病
「まったく、闇だの病だの患いだのと、貴様ら人間という種は不毛なものだな。結局のところ、恋などというものは脳内麻薬の見せる幻想にしかすぎん。いっそのことただの生殖行為と割りきってしまえば思い煩うこともないだろうに」
「せ、生……。そ、そりゃネウロなんかにはわかんないよ。恋心って自分じゃどうにもならないものなんだから。焦がれて焦がれてどうしようもないってもの、あんたにはなかったの? ほらその……魔界で、とか」
「ほう、気になるのか?」
「べ、別に! いや、そ、そりゃちょっとはその……えっと」
「フン。焦がれてどうしようもないもの、か。あるぞ我が輩にも」
「えっ。な、何」
「決まっていよう。『究極の謎』だ」
「…………うん。どうせそんなことだろうと思った……」(弥子→ネウロ?)
077.どこへ行くの
訊いても、きっとあんたは答えない。人の意見もおかまいなしに、つれて歩くだけ。
私はその背中を追うしかなくて、少しだけ切なくなる。(弥子)
078.泥沼
「おやおや先生。今日はまたずいぶんとお早いご到着で。もう夕方の五時過ぎですよ」
「……ご、ごめん。えーと、あの、そのう……ほ、補習とか〜色々事情があって」
「補習ね。――そういえばご存知ですか? 今日、駅前に新しく行列の出来るラーメン屋ができたとか」
「ああ、うんそうそう! すごい人並んでた!」
「特にとんこつスープが絶品らしいですね」
「そうなの。もーすっごく味が濃厚でね! とんこつだけじゃなくてしょうゆも塩味も美味しかったけど」
「なるほど。それでつい時間も忘れて全品制覇なさったと」
「だってせっかくだし全部味わわなきゃもったいな…………、あ。」
「――さて、それではお仕置の時間です。お覚悟は宜しいですか、先生?」(惨劇の予感)
079.切れ切れ
「やっ……ほんと、ちょっ……待っ、……うろ」
「待てん。だいたい貴様は根性がない。さっさと合わせろ、ナメクジが」
「……な、こと言われ、てもっ。体力バカのあんたに……私が合わせるなんて、ムリ、だからっ……」
「このプラナリアめ。朝までかける気か。早くしなければ謎の鮮度が落ちてしまうだろう、さっさと歩け」(いつもの二人)
080.迷い子
『忘れないで』――認めない。
『今の私を』――聴こえない。
『この一瞬の刹那を忘れないで』――君の姿が、見えない。
刹那、刹那。私は本当の君を探しに行く。たとえそこへ到達する道がどんなに遠く、罪咎に汚れていようとも。(春川教授)
081.正直者は馬鹿をみる
「…だそうだぞ、吾代」
「なんでオレを見んだよ! つかなんだその憐れむような目はァァ!!」(ネウロと吾代)
082.聞こえる
――ヤコ。
ときおり雑踏の中で私の名を呼ぶ声がする。けれど、ふり向いても誰もいない。
……ほら、また聴こえた。ねえ、あなたは誰? どこにいるの?(弥子)
083.白紙
そうやってあんたは、全部なかったことにするって言うの。それならせめて、私の気持ちも記憶も全部、持っていって。あんたのいないこの地上で私がひとり、耐えて生きていけるように。(残された者)
084.勝利の秘訣
「秘訣も何も、人間相手なら必要ないよねあんたには」
「そうでもない。場合による」
「じゃあ、たとえばどんな秘訣があるの?」
「基本だが、敵の手の先の先を読む、切り札は最後まで見せない。あとは……そうだな、いざとなったら矢面に立たせる手駒を増やしておく、とかな」
「それって要するに盾にするってことだよね……あんたのほうが構造的には人間より丈夫なのに」(ネウロと弥子)
085.噂話
「ねー、吾代さん。風の噂に十歳までは『仔猫ちゃん』って呼ばれてたって聞いたんだけど、それってホント?」
「! バっ、お前どこでそれを!」
「まあ照れずとも良いではないか、『仔猫ちゃん』」
「…やっぱりテメエかァァ化け物ォォォ!!!」(いつもの光景)
086.大嫌い
――ぱんっ、と乾いた音がした。
怒りに肩を震わせる少女を、男は冷たいまなざしで見下ろす。その頬は赤く染まっている。
荒ぶる感情を抑圧しきれず、再びふりあげられた少女の手首を彼は掴んだ。ひどく淡々とした口調で、二度目はないぞと。(魔人と少女)
087.負の遺産
お前、後々犯人とかならねーよな?
問うてから己は何を口にしているのだろうかと自嘲する。どうかしてる。
これ以上の業を背負うことを恐れているのか? …刑事という因果な生き方を選んでおきながら。
そんな自分に再び呆れた自嘲が漏れる。(笹塚)
088.木っ端微塵
「うわ、そんなのもったいない。粉微塵にしちゃったら中身見れないじゃん」
「バラバラのグチョグチョにするのとそう変わらないと思いますが……」(サイとアイ)
089.翠
「あんたの瞳よりは、少し明るい色だね」(弥子)
090.水蜜桃
「ほい、弥子ちゃん。陣中見舞い」
「わー、桃ですね! ありがとうございます笹塚さん! ……でも、果物のさしいれなんて珍しいですね。いつもはおつまみ的なものが多いのに」
「…いや、なんとなく似てるかなーと思って」
「何にですか?」
「弥子ちゃんのほっぺ」
「……私の頬、こんなに赤くないですっ!」(笹ヤコ)
091.肩を抱く
「? どうしたんですか、笹塚さん」
「……いや、肩に糸屑がついてたから取ってあげようかと思って」
(先輩、それじゃヘタなナンパの言い訳っすよ……!)(笹ヤコ+石垣)
092.意外な真実
「あんたがあいつのアキレス腱だって、本当に気づいてなかった? ニセモノの探偵さん」
「私が、ネウロの?」
「そう。あいつにとって唯一、挿げ替えのきかない人間だってこと。だからさ、余計に興味があるんだよね。あんたを喪った魔人が一体どんな反応を見せるのか。……ねえ、あんたのこと箱にして確かめてももいい?」(サイ→ネウヤコ)
093.あなたが一番
「秋と言えば食べものが美味しい季節だよねえ。梨とか栗とか柿とか、秋刀魚も鮪も旬だし、なんといっても松茸! あーん、一番なんて選べないよー!」
「……貴様の頭には本当にそれしかないのか」(弥子とネウロ)
094.時間がない
ああ、早くあれを箱にしなきゃ。手に入れなきゃ。
箱に詰めて蓋をして、隅々まで観察しなきゃ。貴重なあれがヒトなんかに成り下がってしまう前に。(X→ネウロ)
095.お人好し
「吾代さんのことだよね」
「――だ、そうだぞ吾代」
「だからなんでオレなんだよッ!! つーかてめーら揃って憐れむような目で見んなー!!」(探偵と助手と雑用)
096.思い出すとは忘れる事よ
「…だってさ。なかなか哲学的な言葉だね。あんたはどう思う? アイ」
「さあ、私には解りかねます」
「でも、あんたのことはわざわざ『思い出す』必要はないよね。いつも一緒にいるんだから。――ずっと忘れないでいられる」
「……はい」(サイアイ)
097.交換
「筑紫さんって善い人ですよねえ」
「? いきなりどうしたんですか、桂木探偵」
「だって、あんなややこしい……もとい、気難しそうな笛吹さんのお守……じゃない、部下やってらっしゃるじゃないですか。よっぽどできた人じゃないと務まらないと思うんですよ。エリートだし」
「……はあ」
「あーあ、いっそうちの助手と交換できたらなあ」
「おやおや、先生。筑紫刑事と何を楽しそうにお話してらっしゃるんです?」
「ヒッ!? ね、ネウロ!」(弥子と筑紫とネウロ)
098.道連れ
俺が死ぬときは、あんたも一緒に連れて行くよ、ネウロ。(X)
099.ここが何処だって
どこへだって、私はあんたについていく。
いつかあんたが、
100.見つけた。
そう言って、空腹が満たされるその日まで。(弥子)
(2006.08.01〜12.23)